蹴さんのキセキ【前編】

 2016年2月の明け方、小学1年だった岸部蹴(きしべしゅう)さんは川崎市多摩区の自宅寝室で、左足が激しく痛み、うめいていた。ふとんの中で足をさすっていると、一緒に寝ていた母の知佐子(ちさこ)さん(57)が異変に気づいた。

 蹴さんは、プロサッカー選手を夢見た父の哲郎(てつお)さん(50)が名付けた通り、サッカーが大好きだった。小学校に入学する前から毎朝、哲郎さんと公園などで練習し、小学1年のときにはリフティングを1845回成功した。地元の強豪チームに所属し、将来はスペインのプロリーグで活躍することを目標にしていた。前の日は、東京都内であった練習試合に4試合出場していた。

 試合で関節を痛めたのだろうと思い、知佐子さんは、近くの診療所に連れて行った。痛み止めの座薬を処方されたが効果はなく、我慢強い蹴さんがこれまで見せたことのない痛がり方をしていた。

 「ただごとではないのではないか」

 再び診療所を受診して紹介状を書いてもらい、車で大学病院の小児科に向かった。

 足のX線検査などでは原因がわからなかった。蹴さんから離れるのはつらかったが、知佐子さんは自身が手がける雑貨を発注者に送らなければならず、付き添いを哲郎さんに任せて自宅に戻った。

 「おなかの中に何かあると言われた」

 夕方、哲郎さんからLINE…

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